大腸癌について
大腸癌とは大腸の粘膜から生じる悪性の腫瘍のことで、近年日本では著しく増加している疾患です。これは日本人の食生活の変化と密接な関係がありますが、検査技術の向上も原因の一つに上げられます。
日本において胃癌の発生は減少する傾向にありますが、大腸癌は増加傾向にあります。1989年の大腸癌による死亡者数は23,663人で、全癌死亡の11.7%を占めています。
年齢的には40歳を過ぎる頃から大腸癌による死亡率は高くなり、60歳を過ぎてからの率は急上昇します。男女比では男性にやや多くみられます。大腸癌のもっとも多く発生する部位は直腸で、ついでS状結腸、下降結腸の順に多く発生します。
大腸癌の分類はいろいろありますが、病理学的分類などの細かいことは省略して、病期的分類についてのみ説明いたします。病期的分類は大きく分けて早期大腸癌と進行癌に分けられます。早期癌の中には大腸ポリープ癌も含まれます。
早期癌とは、癌が粘膜内または粘膜下層にとどまるものをいい、筋肉に達するものを進行癌といいます。肝臓やリンパ節に転移があっても粘膜内や粘膜下層にとどまっているものは早期大腸癌となります。
大腸癌の病因は、色々な研究より高脂肪、低繊維食が大腸癌の発生に大きな役割を果たしていることが指摘されています。また、高脂肪食摂取によって産生される胆汁酸というものが発癌を促すという説もあります。現在では、遺伝子のレベルでの研究が盛んに行われています。
大腸癌の症状は発生部位、進行度によりさまざまですが、腹痛、出血、便通異常が主な症状です。腹痛は最も多い症状で、普通は軽い鈍痛で始まります。出血は目に見える血ではなく、便潜血という便を精密検査して初めて分かる程度の微量出血の場合が多いです。また、長期にわたって出血している場合も多く、貧血を伴うことも少なくありません。
便通異常には便秘、下痢、または便秘と下痢を繰り返す交代性便通異常などがありますが、大腸癌による腸の狭窄症状がある場合、不定の腹痛と下痢、便秘を2~3ヶ月にわたって繰り返すことが多くみられます。
一般に大腸の右半分(上行結腸、横行結腸)は大腸の内径が大きく、また便が泥状のため狭窄症状(腸閉塞や便秘など)は起こりにくいため、小さな病変では自覚症状が出現しにくいのです。しかし、回腸液(小腸からでる消化液)の影響で潰瘍を作り、出血しやすくなります。
大腸の左半分(下行結腸、S状結腸)では管腔が狭いため、狭窄による便通異常、腸閉塞などを起こしやすくなります。直腸では、便は通常固形であるため、腫瘍に接触して潰瘍形成を促し、目に見える出血を生じることも多々あります。また、便通異常も多くみられます。
大腸癌の検査は、便潜血を調べることが第一選択となります。以前は赤身の肉や刺し身の中の血にも反応していましたが、現在では人間の血のみに反応する検査法が確立されました。また、血液検査でCEAというものを計ることもありますが、早期発見には効果がなく、転移、再発の指標として用いられます。便潜血で異常があった場合には、大腸X線造影検査と大腸内視鏡検査を行います。
大腸X線検査は大腸癌の部位と大きさなどを見るのに適しています。大腸内視鏡検査は早期の癌の発見や、病変部位から細胞をとって癌の種類を特定したりすることもできます。また、早期の癌に対して内視鏡で手術をすることも可能です。検査で忘れてはいけないのは、直腸指診です。
これは肛門科に指を挿入して直腸、肛門の病変を検査するものです。経験豊富な専門医であればこれだけで直腸癌の大半が診断可能です。
診断がつき、内視鏡的に切除できないものに対しては手術が必要となります。手術の方法は癌のできた部位、大きさ、転移の有無、術前の全身状態などによって異なります。便通異常が著しく、腸閉塞状態の症例などではまず人工肛門を作り正常な腸の状態に戻してから手術を行う場合もあります。
また、肛門癌や直腸癌の一部には手術のため肛門機能が残せなくなる場合もあります。そのような場合は人工肛門を造設する場合もあります。
大腸癌の予後は比較的良いので、早期に発見し治療すれば、殆どの癌は根治できます。しかし、進行してしまった癌では抗癌剤などが効果を発揮しにくく、治療に難渋することもあります。どの癌でも同様ですが、早期発見・早期治療が必要となります。年に一度は、便潜血、直腸指診などの検診を受けてください。
大腸癌について
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予後